氷のない生活:気候変動や氷河消滅の影響を研究するプロジェクト

November 9, 2021

気候変動に直面する今、氷河の消滅は温帯地域と熱帯地域の山間部に住む人間や生物にどのような影響を与えるでしょうか? BNPパリバ財団の「気候&生物多様性イニシアティブ」プログラムは「氷のない生活(LIFE WITHOUT ICE)」プロジェクトの研究支援を通じてその答えを出そうとしています。

フランス国立持続可能開発研究所(IRD)の生態学研究者で科学副主任のオリビエ・ダングル氏が率いる「氷のない生活」プロジェクトは、フランス、熱帯地域のアンデス山脈、アフリカおよびインドネシアにおける物理的、生態学的、社会文化的な影響を推測することを目的とし、持続可能な開発目標(SDGs)の中でも特に目標15「陸の豊かさも守ろう」と目標13「気候変動に具体的な対策を」に取り組んでいます。私たちは氷のない世界で生きて行けるのでしょうか?

「プロジェクトの1つ目の挑戦は、従来とは違った観点からの研究です。2つ目の挑戦は、気候変動を受け入れて順応するのではなく、社会の仕組みを変革するために、人々・多国籍企業・政府の共通認識を形成することです。他に住める惑星はありません。私たちはこのことを自覚しなければならないのです。」(オリビエ・ダングル氏)

 

オリビエ・ダングル氏はBNPパリバ財団の「気候&生物多様性イニシアティブ」会議で「氷のない生活」プロジェクトを紹介しています。BNPパリバ財団のYouTubeチャンネルで録画を公開しています。(フランス語音声に英語字幕)

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氷河の犠牲は気候変動の象徴

気候変動に直面し、地球の気温が次々と記録を更新する中、氷河の後退はこの10年間の大きな生態学的および社会的問題です。

私たちは今、多くの国で氷河消滅の兆候を実際に目撃しています。たとえばエクアドルにあるアンデスの熱帯氷河は最も危険にさらされ、最も早く消滅しようとしています。その氷河とともに、何百万年もの生物の進化や数千年間もの人間の文化の多様性の痕跡も消滅しようとしています。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の様々な予測によると、2100年までに氷河の質量は地球全体で35%から55%、ヨーロッパと熱帯地域の両方で最大90%減少すると言われています。

雪で覆われたエクアドルのコトパクシ火山の頂上(5,900m)- © オリビエ・ダングル

 

氷のない世界が生物多様性に与える影響とは?

氷河の消滅は、氷河の環境に適応した生物に致命的な影響を与えます。氷河は低温生物の多様性(周氷河地域の動物、植物、水生動物種および陸生種)の持続可能性に実に大きな役割を果たしています。また生命に不可欠な水やミネラルも提供しています。何より、氷の消失は水の循環(洪水/干ばつ)、水の供給、さらに動物や人間の食糧供給にも重大な影響を与えます。

氷河の消滅はまた、氷河の環境と文化的および精神的に密接なつながりのある山間部の地域社会にも重大な影響を及ぼします。

過去数十年にわたり、様々な学問領域が氷河後退の影響を個別に考察してきました。しかし氷河後退が生態系と社会の両方に与える物理的な影響について、複数の異なる学問分野にまたがる研究はほとんどありません。

 

© P-Y Joseph / Tulipes & Cie / LIFE WITHOUT ICE(氷のない生活) / BNPパリバ財団

 

ドラゴンと氷河

小氷河期(約1300年-1860年)の間、氷河は毎年数十メートル前進していました。近くの谷に住む人々は農作物や住居が危険にさらされることを恐れ、氷河を山からくるドラゴンになぞらえ、追い返さなければならないものと考えていました。

このような氷河にまつわる神話や信仰は今でも世界中に見られ、気候変動の哲学的および倫理的観点につながる文化的な象徴です。

ドラゴンと氷河は、人間との関係に多くの類似点があります。したがって氷河の融解は山間部の地域社会に大きな影響をもたらし、人間と自然との関係の認識や、不安感、「環境問題心配性」にまでつながる可能性があります。

それは民話を超え、物理学・生態学・哲学など、異なる学問分野から総合的に取り組む必要性を示しています。

 

「氷のない生活」プロジェクト:学際的、参加型研究の一例

オリビエ・ダングル氏が率いる国際的な学際的研究チームは、温帯地域(フランス)と熱帯地域(ボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー、ウガンダおよびベネズエラ)の両地域に焦点をあて、地球規模の氷河消滅が生物多様性や人々に与える影響を研究しています。

このプロジェクトは、科学者や現地の人々の知識に基づいた対話を通して、解決策の提供から適応段階まで進むことを目指しています。

また幅広い専門分野の視点を活用し、4つの大陸で現地調査を行い、氷河消滅の複雑な過程に関する分析を提供します。気候変動の観点から、次の4つに焦点を当てて活動します:

  1. 氷河物理学と生物学の相互作用、そして生物自体の絶滅への影響
  2. 氷河の融解が水の循環に与える様々な影響、また生物多様性への影響
  3. 氷河消滅が土壌生物学に与える様々な影響、また生物多様性への影響
  4. 氷河消滅が山間部に住む人々の地域社会に与える様々な影響:水資源管理や氷河との宗教的、哲学的および精神的なつながり。最終的な目的は、科学者や現地の人々との知識に基づいた対話(市民科学)を通して、氷のない生活に適応するための解決策を見いだすことです。

 

「氷のない生活」プロジェクトは人間が考え始めた様々な適応技術を一歩先に進めるため、持続可能性科学を取り入れ、人々と協力し、エネルギー消費に対する関心を高めることにより、私たちの社会の仕組みを抜本的に変革することを目指しています。私たちが何気なく環境に負担を与えていたものの、実際には無くすことができるエネルギーがあるかもしれません。

「大きな問題に取り組み、普及活動の可能性を持ち、地球全体をカバーするこのプロジェクトはしっかりと組織化されています。BNPパリバ財団が支援するべきプロジェクトであり、社会に大きな変化をもたらすでしょう」BNPパリバ財団 科学委員会

 

 

※本記事は英語で発行された記事の抄訳となります。原文をご覧になる場合はこちらをクリックしてください。